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顔はすべてを語る 豊田泰光(野球評論家) プロ野球チーム「西鉄」の黄金時代に中心選手として活躍し 引退後は、野球評論家としても活躍した豊田氏。 宿舎に向かうバスに乗る時、チームリーダーの先輩に謝ると、 「謝って済むならお巡りは要らん!」 と思いっきり蹴飛ばされ、私はバスの外へ転がり落ちた。 死にたい気分だった。 バスの座席に戻っても、出てくるのはため息ばかり。 あぁ俺は最低だ。 もう野球なんかやめて国へ帰り、土建屋の親父の手伝いでもしようか。 外は暗く、車窓に映る自分は何とも情けない顔をしていた。 しかし、このまま終わりたくはなかった。 なんとかこの借りを返したい。自分を使ってくれた三原監督、 好投を続けていたエースの川崎さんに恩返しをするためにも なぜあんなエラーが起きたのか。 大事な場面で動きが止まらない方法はないか。 一年間、心に残ったトラウマと闘いながら私は考え続けた。 そしてついに、「動いて捕って、動いて投げる」 独自のスタイルをあみ出したのである。 守備に自信を得た私は、打撃の勝負強さにも磨きがかかり、 攻守にわたる活躍で西鉄の黄金時代を支えた。 この体験から得たことは、 単に野球の技術に関することばかりではなかった。 私を蹴飛ばした時の先輩の顔。 極悪人のように醜くゆがんだその顔は、いまだに忘れることができない。 また、バスの車窓に映った自分の顔は、何とも言えず情けなかった。 顔は、その人の心をつぶさに 表していることに私は気づいたのである。 バッターボックスに立って相手ピッチャーの顔を見る。 緊張してこわばっていれば 必ず甘い球が来るから、私は逃さずはじき返した。 逆に、キャッチャーのサインを 落ち着いてのぞき込んでいる時には、結構いい球が来る。 そういう球は簡単には打てないから、 ファールで粘ってチャンスを待った。 意識して見れば、何気ない相手の表情から いろんなことが分かってくる。 チャンスに強いと言われた私のバッティングも、 そのことに気づいていたことが大きい。 顔というのはバカにならないのである。 しかし、多くの人は自分の顔についてあまりにも無知である。 髭剃りで毎日鏡をのぞき込んでいても、 肝心の自分の顔をちゃんと見ていない。 特に責任ある立場に立つ人には、 もっと自分の顔に注意を払っていただきたいものだ。 やはり人間、一番いいのは笑顔である。 自分の生き方を貫いてきた人は、 ニコッと笑っただけで相手の心をつかむことができる。 人生の辛酸を嘗め尽くしてきたお年寄りが、 時に見せる少年のような笑顔は、 接する者を何ともいえない嬉しい気持ちにさせる。 どんな組織でも、上の人間から笑顔で明るく 「おはよう」と声を掛けている所はうまくいっているはずである。 顔というのは、年とともに変わっていく。 若い頃の私は、いま考えると 恥ずかしくなるくらい生意気な顔をしていた。 野球選手として脂の乗っていた頃は、 目つきが鋭いといって怖がられた。 現役を退いてからは人間的な幅も広がり、 それが多少なりとも表情に反映されてきているように思っている。 顔にはその人の生きざまが刻み込まれ、 年とともに独自の味わいを醸し出してくるものだ。 |
2026.02.07 |
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